佐々木かをりのwin-win 素敵な人に会いました、聞きました

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富永誠一さん

特定非営利活動法人 全国社外取締役ネットワーク 事務局長

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従業員が目指すべきなのは執行役員のポスト

佐々木

今まで外の人たちに向けて、啓蒙活動などをしていく中で、難しいなと思ったことは何ですか?

富永

たぶん大企業の役員レベルの方で、しっかり勉強すればコーポレート・ガバナンスの意味が分からないということはほとんどないと思うんですよ。ただ実践ができていないというのが大きな課題ですね。取締役というポストの多くが従業員出身の方で占められている日本の現況がありますので、それを社外の人に明け渡すのか、もしくは社外取締役が過半数になっちゃったら、社長の首も社外の人が握るのかといったところについては、かなり違和感というか、拒否感があるのは感じます。もちろん、コーポレート・ガバナンスは重要だね、本来取締役会というのはこういうものだよね、そこにおける社外取締役というのはこういう役割だよねということをじっくり話し合うと、大体、分かっていただけるのですが。

佐々木

総論は賛成。

富永

各論も反対じゃないんです。ただし、一歩を踏み出すためには、いろいろなハードルがあるってことでしょうね。それは会社によって大きく異なるとは思います。

佐々木

どんなハードルが見えていますか。

富永

やなりポストの問題が大きいのではないでしょうか。男社会ですから、ポストというものへの執着は極めて大きいと思うんです。1997年ぐらいから大企業では執行役員制度が導入され、ずいぶん浸透してきています。取締役の数を減らして、取締役は経営の監督に特化して、いわゆる経営というか日々のオペレーションは執行役員に権限移譲しようというものです。それであれば、従業員は執行側のポストのトップを目指すべきなんだけれども、取締役と執行役員が兼任をしているところがあったり、偉いのは取締役だというところがあるかと思います。従業員が目指すべきなのは執行サイドのポストで、取締役というのは、本来はそこを監督する立場といったところが浸透してくればいいなと思います。

それは日本の経済発展の歴史の中で、取締役というのは業務執行に極めて精通した人だという認識が多くの会社にまだあると思うんですね。諸外国では、ディレクターとオフィサーの役割が分かれているのですが、日本の取締役はこの両方の機能を持っているところが話を分かりづらくしているように思います。法律がそうなっているのでこれを変えることは簡単ではありませんが、ディレクターとオフィサーの概念を理解することが重要です。これはイー・ウーマンの円卓会議でも強調しましたが、そこが整理されてくると、もう少し理解が進むのではないかと思います。

佐々木

それはすごく奥深い議論だと思うんですよね。どこの企業も、一括採用された男子による終身雇用が主流となると、入社後は、自分が20年頑張れば、課長になり、部長になり、そして30年、40年やっていけば、自分たちの中の半分ぐらいは役員になったり、子会社の社長になったりすると思って、仕事をしている。

富永

そこがモチベーションだったりするところがありますからね。

佐々木

それがそもそも間違いである?

富永

それ自体は間違いではありませんが、もし執行役員制度が入っていれば、目指すところは執行側のポストだと思うんですね。入っていない会社もあるので、一概には言えないですけれども。

佐々木

そうすると、富永さんは企業に入社した時、基本的に我が社のキャリアトラックは、課長、部長と上がっていくと、執行役員というポジションがあって、それは従業員出身の人たちがいくゴールですよという絵を本来は人事部が描いて、若いうちから、こういうところがあなたたちが今、走っているトラックですよと伝えるのが良いとお考えですね。

富永

単純化するとそうです。これをやってほしいですね。今言われたみたいな人事部の教育の中で言っていくとガバナンスの理解も進むでしょうし、そもそも目指すべきポストが執行役員であれば、取締役と執行役員のどっちが偉いかというのではなくて、役割の違いであることが理解されやすい。全体のガバナンスのリテラシーが上がってくるわけですから、社外取締役の制度が進みやすくなるかなという気がしますね。

あともう1つは、「あなたたちが目指すべきポストは取締役ではなく執行役員です」ということを経営トップが自ら言うとか。執行役員制度を導入するときに、もしくは委員会設置会社に移行するときに、経営者が自ら、そういうメッセージを発している会社もあるんです。そういう会社ではガバナンスの理解が進みます。


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