佐々木かをりのwin-win 素敵な人に会いました、聞きました

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松井久子さん

映画監督・脚本家・プロデューサー

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「これでいいのか?」っていう気持ちがでてくる

佐々木

私は、映画を作るにあたっての、いろいろなご苦労を映画のパンフレットで読ませていただいたときに、映画化への道のりが、イサムを育てるレオニーの苦労のようだと思い、松井さんのご苦労が、ちょっとダブりました。

松井

そこには書けないようなところが、もっといっぱいあるんですが……(笑)。

佐々木

まだ、あるんですね? すでに相当、滅入ってしまいそうな出来事がいっぱい書かれていたんですけれども。でも、これって子どもを育てていくとき、特に今回のストーリーで言うと、レオニーがいろいろな日本の文化の中でも、様々な人との中でも、体験した課題を乗り越えていくのと、ちょっと似ているかな、と思いました。で、映画制作のことなんですけれども、まず映画作りっていうのは、かなりのお金のかかる話ですよね。

松井

そうですね。

佐々木

でも監督は、「お金儲けじゃない映画を作りたい」と。

松井

もちろんビジネスだから、アーティストがたとえば絵を描く、そういうこととは全然違う。たくさんの人を巻き込み、私自身が持っているお金とか家を売ってでも作りたいと思ってもその家もないわけだから、人の力を借りなければできないものなわけです。だからビジネスとして成功しなければならない。これが今私の抱えている最大の課題なんですけれども。

でも今は、興行収入とか配給収入でペイするために、そこからの逆算で企画を考えるものがあまりにも多い。たとえば、ものすごくヒットして視聴率をとったテレビドラマを、大きな映画会社がテレビ局と組んで映画を作って。それが当たったら、そこで利益が出るわけじゃないですか。利益が出たら、もっと時代を超えて残るものとか、社会のためとか、そういうふうに使ってもいいんじゃないかと。

という私の考え方は甘いのかもしれないけど、そういう意味で、最近映画会社は映画を作るということの本来の志を失っているな、という気持ちです。

佐々木

つまり映画というツールを使って、いかにビジネスをするかというところに多くの映画会社は長けてきたけれども、本来映画が伝えなきゃいけないものとか、そこに入れてほしい魂みたいなものが欠けてきているんじゃないか、ということですか。

松井

そう。で、それは全部、経済効率優先の時代になっていくことなんですよね。それで景気も悪いというときに、もう冒険はしないっていう。そういう日本の社会全体が、文化を含めてすべてが薄く軽くなっていく。そういう社会全体の風潮に対して、私の年齢になると、「これでいいのか?」っていう気持ちがでてくる。経済がこれだけ疲弊して、高齢社会を迎えて、日本は経済的に行き詰まって、もう未来はあまりないんだ、希望はないんだって、皆がここまで元気がなくなって。それで世界に対しては、もう何も自慢できるものがないってなるのはおかしいだろうって思うのですよ。


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