佐々木かをりのwin-win 素敵な人に会いました、聞きました

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松井久子さん

映画監督・脚本家・プロデューサー

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一家の大黒柱だったっていうことも大きいです

松井

あとは仕事のキャリアで言えば、一家の大黒柱だったっていうことも大きいですね。夫婦で生きていると、自分がちょっと意に染まない仕事があったとか、自分がちょっと休んでも、夫の経済力で生活はできる。離婚した私には、それがない上に、ずっといつもフリーランスでしたから。

佐々木

フリーランスで、シングルマザーで、「自分がやらなきゃいけない」と。

松井

そう。だから、自分に来た仕事を何か一つ断ったら「もう仕事が来ないんじゃないか」って思ってしまう。「だから断れない」って、何でも断らずにやってきたことが、本当に私を鍛えてくれた。我慢強くもしてくれた、と思います。夫がいたら、こんなに頑張らなかった。頑張る必要ないですもんね。

佐々木

ところで松井さんの公式サイトのメッセージのところにポール・コックス監督の言葉がありましたが、すごくいいですね。「今の子供たちは、ふさわしくないものを尊敬しながら育つ。不当なまでに有名で、ほとんど中身のない人々を崇拝して成長する。私たちはこの浅薄さの前で何もできず、そのことに気づこうともしない。見るもの聞くもののすべてが、ただうわべだけのものだったら、誰が人生に真実を見出すことができるだろう?」という。

松井

それがまさに私の、今回『レオニー』を作る上での基本姿勢、軸になっていることですね。そこを軸にしながら、「だから、やらなきゃいけないんだ」っていうふうに思って撮りましたね。

佐々木

先ほど、会社は守るものがあるとおっしゃったけれど、起業というのも何もないところから、価値を生み出そうとしているんですよね。イー・ウーマンはバナー広告をとらないって決めているんです。バナー広告を掲載したとたん、広告主のためにベージビューを上げることが仕事になるからです。中身ではなくて。本末転倒になる。だから、自分で考えて、自分で選んで、自分できちんと責任を持って行動する大人が育つことを応援する仕組みをつくりながら、企業としても前進する道を日々模索していているんです。

映画を作るような素晴らしい才能はないんですけれども、どうやったら、普通の人が日常生活の中で、そんなことを感じ取ったり体験する仕組みが作れるだろうかって、私は毎日ずっと考え続け、挑戦してきています。とても僭越ですが、志というか、目指すことがすごく似ていると感じたんです。すごく図々しいですけれども。

松井

とんでもない。今この社会に必要なのは「志」ですよね。

佐々木

もっと多面的な価値観や評価軸が生活に加わらないと、本当に日本はダメになっちゃうだろうなって。

松井

その通りです。それと、大人が味わうものがあまりにも少ないというか。私は所詮映画という一編の作品を作る人間に過ぎません。しかも昔ながらのシステムに組み込まれながらしか作ることができない。既成にあるものに自分が入っていって、そこにあるシステムに沿いながら1本の作品を作るだけで、もう精一杯。システムそのものを改革するなんて、到底できないわけですよ。でも佐々木さんは、システムそのものを作られているっていうところが、すごいです。

佐々木

作ろうとはしているんですけど、まだ……。

松井

でも、作られていると思います。今までを見てもね。それはすごいことです。無から生んでいらっしゃるんだから。私、自分がレオニーとちょっと似ているなと思うのは、たとえば「レオニー」という映画がそうですが、全く白紙のところから、創作だけでオリジナリティー溢れるすごいものを作るほどの才能はありません。ドキュメンタリー的なストーリーをベースに、私なりの感性で膨らませるっていうのは、結構得意だと思うけれど。そういう意味では、佐々木さんは何もないところから社会的な使命感をもって新しいシステムを構築していらっしゃるのですから。それと、私に絶対になくて佐々木さんにあるものは、ビジネスをちゃんと成立させる……。

佐々木

していないんです。

松井

しているように見えますよ。

佐々木

そうですか。それは、映画もしているように見えますから同じです(笑)。そこがやっぱりすごく難しいですね。人々が、見たことも聞いたこともない、新しいもの。必要だと誰かが言っているわけでもないものに、「こういうものはどう?」と提案して、そこへ、その人の生活や価値観をストレッチしてもらいたいという、市場を創造するという図々しい欲望があって。


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