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宇宙飛行士
今までのフライトのご経験は、すでに「オンリーワン」(新潮文庫)とか「宇宙より地球へ」(大和書房)など、ご著書にたくさん書いてあるので、詳細はそれを皆さんに読んでいただくとして、今日は本に書いていない話をしたいのですが、でも絶対、これはやっぱり直接お聞きたいと思ったのが、初めて地球を見たときのことです。それも、EVA、船外活動で、ドアを開けて外に出たときのこと。「地球に手が届きそうだった」って感想を述べられていましたが、宇宙に行っても、船内からガラス越しに見ているのと、ドアを開けてでるのでは、全く違うでしょう。さぞ気持ちいいだろうなと思うんです。そのときはどうでしたか?
最初は、気持ちいいっていうか、まず猛烈な緊張感があるんですよ。というのは、仰るとおり、宇宙船の中から見ている分には、まさに普段着でいて、ガラス越しに見て、きれいな絵を見ている感覚に近いですよね。平板な絵を。確かにきれいだし、すごくダイナミックに見えるけど、普段の生活があって、そこにポンと、額縁に挟まった美しい絵が見えるっていうのかな。で、それはそれできれいだと思っているんですけれども、それに対して、船外活動で出るときっていうのは、いわゆる真空の世界に出ていくという、本質的な死の世界に出ていく恐怖感があるんです。恐怖感っていうんじゃないけど、緊張感ですね。
宇宙服を着て、二重扉の間に入って、徐々に空気を抜いていくんですけれども、空気が抜けていって、気圧計が見えて、宇宙服がパンパンに膨らんできて、やっぱり宇宙服をはさんで、あるいはヘルメットをはさんで、外が真空になったときの、いわゆる音が響かないというのがあるじゃないですか。音が伝わらない。でも振動の音だけは伝わってくるんですけど。握ったところだけ、音が伝わってくるんですよ。
手で握っていると、響きはある。
たとえば、こういうモノをお互いに持っていれば、こうやってたたくと、振動から伝わってくるわけです。だけれども、触っていないと、そちらでコンコンたたいても、まったく聞こえないという、その感覚があるんです。
音が本当にないんですね。
全くないですね。だから隣で騒いでいても聞こえない。
自分のすぐ後ろにある宇宙船の音もないってことですね。
まったくないです。手から伝わる振動だけですね。でも、面白いことに手から伝わるものはもう一つあって、温度ですね。真空の宇宙でも温度差はちゃんとあって、それが握った手からわかるんです。