働く女性の声を発信するサイト『イー・ウーマン』
そこまで総合的に準備しているなんて、すばらしいと同時に、ますます興味がわきます。サミットの要人が到着したら、こうやってガードして、ここまで移動させる、というだけでなく、警戒地域からハブが出るんじゃないか、隊員が毒を盛られるんじゃないか、その間に北海道でハイジャックがあるんじゃないか、という想定。限りないと思うのですが、何か事例があって、今でいうストレステストをするのですか。
これはまず脅威分析(threat analysis)なんです。国内外のテロ情勢などを分析するんです。
確かに「第1回東京サミット」のときの想定案件と「九州・沖縄サミット」では、すでに時代も変わるから、前のサンプルのチェック項目10個をやっておけばいいというのではなくて、毎回想定し直す、と。
はい。時代が変化して、テロリストの手口も変わってきているので、それに応じた対策を取らなきゃいけない。アラブゲリラの時代からアルカイダほかのイスラム過激派の時代です。攻撃は必ずしも拳銃とか手りゅう弾とは限りませんし、ロケットランチャーかもしれない。そうすると、それで要人警護中のヘリコプターが撃たれたらどうなるんだ、ということも想定されます。あまり細かいことを言うわけにはいきませんが、そういうことも含めていろいろ考えるんです。
食事の問題や、一時期バイオテロなんて話もありましたし、飛行機で自爆攻撃してくるなど、いろいろな想定があると思うんですが、そういうのはどのくらい想定するんですか。
想定されるあらゆる事態に対して対策を立てるのです。どこかの原発施設のことを言うつもりはありませんが、“これ以上の高さの津波は来ないだろう、なんて考えて甘い想定で対策を考える”、ということはありません。『最悪の事態を想定して最善の措置を講じる』というのが危機管理の要諦だからです。
サミット参加国首脳は、最初はG7でしたけれども、日本では「九州・沖縄サミット」からG8の首脳が参加しました。この人たちを攻撃しようとする過激派は、その国内にとどまらず国際的に存在するわけです。その最たるものがアルカイダです。ですから、こういう人たちの過去の攻撃がどういう攻撃だったかを分析するんです。彼らはあらゆる殺人の方法、あらゆる攻撃方法、爆弾の作り方を学び、そして実際にそういう訓練をアフガニスタンでやって、そして自分たち自身が自爆テロを実行している。もちろんテロ事件は、欧米諸国や中近東やアフガン、パキスタンだけ発生しているわけじゃありません。大韓航空機爆破事件を実行したように北朝鮮の特殊工作員などのテロ攻撃の可能性も当然ありうるわけですね。ですから、そういうこともいろいろ考えながら対策を取ることになるんですよ。
「九州・沖縄サミット」警備のようなものの事前の準備で、今お話に出たようなことは、どのぐらい前からするんですか?
サミットの開催地が決定してから余裕をもって準備を始め、少なくとも1年前から本格的に体制を取ります。
佐々木:1年前からだと、あっという間ですね。リサーチしたり、最新の状況を確認してから体制を整えて、体調も整えて向かうというと、本当に時間が短い。
いろんな想定に基づく対策を検討するためにプロジェクトチームも作ります。 一番大事なのは、警備計画の策定と事前対策の実施です。『警備活動の成否は、事前対策で9割は決まる』といいます。それほど事前対策は重要なんです。定期的に、どういう措置がどこまで進んだかということをいろいろ検討していくんです。開催地が東京だと3回の経験があります。開催地が沖縄となると、優秀な人材はいても、サミット警備の経験がないんですね。ですから、1年前に東京から10人ほどサミット経験と知見を持つ警備の専門家を沖縄県警のプロジェクトチームに加えました。
それは警察の方?
はい。警視庁の警察官です。先ほど申し上げたように、私はサミット警備の経験がいくつもありましたから、警視庁にはサミット警備対策委員会の事務局に勤務し、気の遠くなるような膨大な警備計画を策定した専門家がたくさんいることを知っていました。その中から優秀な人材を選んで沖縄県警に行ってもらったのです。
そして1年間、沖縄県警の人たちと一緒になって周到綿密な警備計画を作り上げるんです。その作り上げた計画と対策を、その都度、東京で、あるいは現地でチェックする、これでもかこれでもかと何回もやるんです。この派遣組の専門家と沖縄県警の人たちとは、本当に仲良くなり、サミット警備が終わった後も交流が続いたと聞いています。