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理事会や総会のときは、必ずジュネーブに戻ってます。こちらが総会の写真です。毎年、期間限定で、官房のお手伝いに借り出されるんです。私は壇上に座っているんですが、何をやっているかというと、「DGの耳」となる、つまりDirector General、事務局長の代わりに、世界中から来る加盟国代表者のスピーチを全部聞く。それはもちろん英語だけじゃなくて、英語、スペイン語、フランス語と。
荒井さん、何語でも聞けるから。
理解できない言語も、もちろんあります。中国語とかロシア語とかアラビア語。それらは他の国連言語への同時通訳を介して聞いて、その日のうちに「今日のスピーチ」というダイジェストを事務局長(DG)に提出するんです。するとDGは、どこかの国の大臣と面会する直前に私たちの作ったまとめを見て、この人は本会議場でこういうことを言っている、と確認して、「大臣が昨日のスピーチで仰っていたように・・・」って話ができるわけです。
ILOって、他の国連機関にはない、独自の三者構成主義を取るんです。普通、国連って、各国が1票を持ち、国と国民は、各政府により代表されるじゃないですか。それが、ILOへの各加盟国代表団は、政・労・使。つまり、政府代表2名、労働者代表1名、使用者代表1名で構成され、労働者と使用者の代表者が政府の代表者と同じ地位で自由な討議と民主的な決定に参加する原則をとっているのです。なので、個人的には、政治も3倍複雑で難しいと思うんです。
183の加盟国があって、かける政労使で3倍。プラス、オブザーバー・ステータスで参加する機関とかがいるから、600ぐらい、本当に聞くんです。最初の年は、ドイツ人のすごく優秀な方と二人組で担当したのですが、苦を共にした彼女とは今でも本当に仲のいい同僚です。朝8時から夜中の3時までろくな食事をせず仕事して、次の日も8時には会議場に入っているわけですから、体力勝負ですよ、本当に。
ただ聞いているんじゃなくて、まとめを作らなきゃいけないし、「あとで作る」っていうわけにはいかないから、どんどんその場でまとめていかなくてはいけない。壇上にラップトップ持ち込みで?
そうです。どんどんその場でやらないと間に合わないし、実は、毎日そんな作業を2週間続けた上に、総会の最終日、最後の方のスピーチを聞いた3時間後には、総会全てを振り返る「事務局長の返答(DG reply)」という20ページほどのスピーチを書き上げるのです。全てのスピーチからサウンドバイトをかき集めて。でも、こんなに機械的な作業なんですけど、仕事って、どこかに何かしら面白い要素ってあるじゃないですか。メリー・ポピンズが「どんな仕事にもelement of funがある」と歌っているけど、そのとおりだと思うんです。
私も最初、「600ものスピーチ、2人で聞くわけ?」って度肝を抜かれたんですが、ポジティブに考えると、自分は一つの場所から全く動かないのに、二週間で世界中の労働のパノラマが見えてくるっていうのはすごいと。
それ、私、すごく面白い仕事だと思う。私に能力があれば手伝ってあげたい。
ジュネーブでは、こういうお仕事もしているんです。途上国の現場とは離れてますが、違う意味でグローバルな現場での仕事ですよね。そういう現場もある、という意味でお持ちした写真です。このグローバルレベルでの議論を如何に国レベルに反映させるか、が重要な課題となります。
上:ILO総会、DGの耳