働く女性の声を発信するサイト『イー・ウーマン』
写真、見せていただいていいですか。
もちろん。これは私が、ILOに入って3日目に、ディレクターが私の部屋に来て、「ユキ、明後日からインドに行ってくれる?」ってことで訪れたインドで撮った写真。ILOのIの字も分からない私は、それで、3週間インドに行ったんです。怖いものです。ILOの規則とか理念とかを十分把握していない、他の機関から移って来たばかりの若い職員を、プロジェクトの形成に送ったんです。何とかなるだろう、試しにやらせてみよう、という事で送られたようです。
きっと3000人の中から選ばれた10人の中でもきっと1位だったんじゃない。だから今回のYPで1位の荒井っていうのは断トツで頭がいいし、お金もちゃんと扱えるからやらせてみよう、と。
そんなことはないです、ランキングもないです。当時のディレクターが、「やってみろ。泳いでみろ。溺れたら、何か言え」という方だっただけです。
「溺れたら死ぬ前に叫べ」みたいなね。
そう。そんな機会を与えてくれたので、私はよく分からないで行っちゃったんですが、このインド出張は、私にものすごく大きなインパクトを与えた3週間となりました。ラテンアメリカで貧困を結構見ていたつもりなんですが、インドに行って、今まで見たことのない、さらなる貧困を目の当たりにすることになったんです。児童労働と貧困は、密接な関係にあり、必然的に私が訪れる場所も、スラムとか、貧しい地域にある小規模な工場だったり。そんな中、まさにこの輝いている子どもたちの目。この写真に写っているのは、私たちのプロジェクトのフューチャーターゲットですよね。どんな活動を展開しても、この子たちの生活に変化がもたらされなければ意味がない。これを忘れちゃいけないと。
モンゴル同様、現場の撮影をしていたところ、子供たちがわーっと寄ってきて。私も子どもが好きなので、一緒に撮ってもらいました。この3週間の出張を終えて、ジュネーブに帰って、自分の席に着いたわけです。こちらが私のオフィスの写真です。この窓の外って、レマン湖が広がり、モンブランが白く輝き、という美しい環境。ここに座って、「よし、プロジェクトドキュメントを書きあげよう」と思ってコンピュータに向かっても、書けないんです。メモはとって来ているんですが、あまりにも見た現場と自分のいる環境がかけ離れていて、止まっちゃったんです。
で、いろいろ撮ってきた写真を見ながら何とか書き上げたんですが、私、2001年にジュネーブでILOの仕事を始めて、そこからバンコクに行って、3回オフィスを移って、さらに今ジュネーブに戻ってきて、結果的にオフィスを5-6回移っているんですが、この写真は、必ず私の手の届く、机の左側一番上の引き出しに入ってます。というのは、時折、特に本部にいると途上国の現場が見えなくなることがあるんです。そんなときに自分に思い出させるというか。
ですから、このインド出張時に子供たちと撮った写真は、私にとって、「よし、やろう!」という気にさせるツールです。これを見ると、いくらマクロレベルの仕事をしていても、結局、ここに届かなきゃしょうがない、いかに届かせるか、と考えさせられる。自分が100投げても届くのは60だったりするわけだから、100届かせる為には、150投げよう、200投げようってなっちゃうんですが、自分一人で投げるんじゃなくて、いかにアクションをつなげていって、いろいろなメカニズムを作ることで、マクロのジュネーブと現場をつなげるか、または国際化の中の、いろんな現象の中の社会と現場をつなげるか。ということで、この写真、私の手元に必ずある1枚なので、お持ちしました。
上:ジュネーブのオフィス、美しい山の向こうに途上国の子供が見えない
下:インドの写真、my future targets