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先ほど少し触れましたが、取締役会に上がる議案をとってみても、細かな案件が結構取締役会に上がっているという現状があります。それで苦労している社外取締役も多いんですね。例えば、社外取締役が1人の会社で、取締役会の規定は一応あるけれども、規定にかかるか、かからないかのグレーなものは上がってくる。日々のオペレーションに関するものや、細かな投資案件も全部上がってくる。社外取締役は細かなことは分からないのに、「分からなくても決断せよ」と言われても困る。意見を言うにも社外取締役が1人ではその雰囲気にない。これでは大変ですよね。
それを熟知していこうと思うと、いろいろな経営会議に出ていかないとならない。
取締役会に出てくる議案の内容がわからないから、仕方なく経営会議に出るというのも不自然な姿です。それであれば、まず経営会議で当日配布された資料や議事録をもらうような働きかけが必要になります。
でも取締役会に上げないといけないアジェンダは決まっていますよね。
もちろん会社法で決まっています。でもそこの強弱の問題で、重要な案件は取締役会で決めないといけないけれども、その「重要」という定義が会社側に任されているんです。だから会社によっては、議案の種類や数が大きく異なる。
そうすると、先ほど話題に出た、執行役員制度がなかったとしても、各事業部長が会社法を学習していただく機会を持って、取締役会に出すアジェンダと、出さないアジェンダの区別みたいなものをしていただく訓練が必要、ということですか。
やっているはずですが、取締役会の本質というか、取締役会本来の役割が十分に浸透していないことが根底にある。それに加えて、リスクテイクの姿勢ではないかと思うんです。リスクを取りたがる国民か、そうではないかというところにも実は根が深い問題があるのかもしれませんね。
取締役会に投げて、決めてもらった方が安心ということですか。
そうです。でも、その心理は分かりますよね。担当者からすると、取締役会で決めてもらった方が安全と考えても何ら不思議ではありません。しかし、社外取締役の側からすると、「そんな細かな話は執行部で決めて欲しい」ということになる。だから取締役会が本来果たすべき役割を社員レベル、少なくとも取締役会に関与する社員レベルにまでしっかり伝えることが大切だと思います。
社外役員を入れることは、短期的には面倒なことが多いですよね。今までは3行でわかりあえた社内のだれもが知っている案件を、社外役員のためにいろいろな資料を作って説明していかなくてはいけないとか、今までは「あの案件だけど、あの人に頼みましたよ」って言えば、「ああ、そうか」で終わったのが、きちんとそれが何なのかを明確にして書かなくてはならない。だから事務局の手間もかかるでしょう。
確かに、あうんの呼吸で済んでいた社内の人間だけでやっていたときと比べると、手間暇かかって大変だと思います。しかし、社外の人間にわかりやすく伝えるというプロセスが積み重なっていくことが会社の足腰を強くすると、前向きにとらえてみることも大事ではないでしょうか。
長期的にはそうやっていなかった場合のダメージの方が大きいのですよね。
大きいでしょう。
外部から指摘されたときに記録がなかったとか、決めたことが分からなくなってしまったとかということがあると長期的に問題であると考えれば、社外役員という人を身近に置いておくことで事務的なことも含めて、訓練をしたり、資料をためていくというのが、とても重要なのではないかと思います。
社外取締役がいることによる副次的な、でも大きな効果の1つですね。やはり何か指摘されたら嫌だから、ちゃんとやろうとみんなが思うことがすごく大きいと思うんです。それがコーポレート・ガバナンスの重要なところで、規律の効いた、足腰の強い組織の運営につながっていく。コーポレート・ガバナンスが企業経営の屋台骨と表現しましたが、そういったところが上場会社、大企業としての責任を果たしていく上で大きな課題だと思っています。社外取締役をうまく使って、社内改革を進めることもできると思うんです。社外ネットから社外取締役を迎え入れたあるグローバル大企業の社長さんが、「社外取締役に払う報酬くらいで会社が変えられるなら安いものだ」と言っていましたが、まったく同感です。社外取締役制度はそういったところで使える、経営ツールと言えるのかもしれません。