佐々木かをりのwin-win 素敵な人に会いました、聞きました

150

野口聡一さん

宇宙飛行士


地球と自分とが、間に何もはさまず

佐々木

何度ぐらいなんですか?

野口

昼間の世界だとプラス150度、夜の世界だと、マイナス120度ぐらいなんですよ。で、宇宙服はしっかり断熱してるからその温度に直接触れることはありません。でも熱さ、冷たさがわかる。なぜわかるかっていうと、握ったときの固さで伝わってくるんですよね。ものは冷たくなると固くなるので、冷たいものを握っているとやがて手袋も固くなっちゃうんです。それで明らかに、自分が今までいた、ぬくぬくといた宇宙船の中と、音も違うし、固さも違うし、温度と圧力が変わったっていうのが分かるんですよね。

そして、ある意味、死の世界に出ていくわけですよ。で、何かあったら、もう死ぬしかないというか、命が存在できない世界。そういうところに出たところで、地球を見たときに、間に挟むものが、まさに何もないと言える。逆に、地球と自分とが、間に何もはさまずに、空気も、ガラスもない。ヘルメットはあるんだけど、非常に近く見えるんですよね。間に何もないという、本質的な近さ。それがやっぱりすごく強烈だったんですよね。

佐々木

音がしない、その上、パンパンに膨らんだ宇宙服になって、たぶん動きも楽ではない状態だと思うんですが、死の世界と仰るのは、結局、自分が何者にも勝てるはずのない状態、というか、この宇宙の中で本当にちっぽけな存在だっていう、そういう意味での死の世界ですか? 目の前に見える地球は、逆に、色もあるし、温かさを感じるわけじゃないですか。でも自分は、仮に宇宙船からのひもが切れちゃったら、映画で観るような、このまま飛んでいっちゃったら、もうどうにもならない、というような、その死の怖さですか? 一度、船外活動から戻ろうとしたら、ハッチが開かないと言って、一瞬ひやっとしたという体験があると、本で読みましたが。

野口

その死の怖さもあります。仰るとおり、何もない宇宙で、地球は全てを持っているわけですよね。命もあるし、熱もあるし、水もあるし、食べ物もあるし、知っている人が皆住んでいるし、全てがあって、こちらには何もない。あるのは背中に担いだ酸素タンクに入っているものだけという、本当に圧倒的な量の差がある。そういう意味では自分がちっぽけだと感じるところもあるんですけれども、それと同時に、地球と僕と、一対一で対等な関係にもあると思えるんですよ。それは、地球は地球で、持っているタンクは大きいけど、でも地球も限られたリソースで生きるしかなくて、それで、けなげに生きているんですよ、地球君は。

佐々木

宇宙の中で。

野口

この広い銀河の中で、一人寂しく旅しているんです。で、僕もそうなんです。僕も寂しく旅していて、僕の必要なリソースは僕の背中にあるでしょ。同じなんですよ。そのリソースが尽きたときに僕は死に、地球も、タンクは大きいけれども、そのリソースが尽きたときに地球は死ぬわけです。だからそういう意味で、非常に比喩的に、圧倒的にちっぽけな存在であると同時に、一対一の対等に向き合っている感覚があるんです。

佐々木

それは、ハッチを開けて出たときに、そうお感じになったんですか?


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