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会議番号:3733 開催期間 2024年01月19日- 01月26日
近親者や親友の死に直面するのは誰にとっても最大のストレスとなります。本日は、近親者との死別について医学の側面から考えてみました。今回のような事故、災害による死に直面することはPTSDとして研究されてきましたが、病死など(直接その場に遭遇しない自死も含みます)の死別は正常な(誰にでも起こりうる)反応として、精神疾患としてとりあげられず、心理学的にgrief(グリーフ)ケアが行われてきました。 「2年前に母が永眠した」という“caoru”さんの投稿は、悲しみとその回復のパターンだと拝察します。“2kishirO”さんの「忘れずに、でも日常を生きる」というご意見はグリーフケアにつながります。シンゴパパ”さんはご自身の体験を述べられています。近親の死との向き合い方は、「悲しみはなくなることはないが、安らぎのある日常を送ることを目指すこと」になるでしょう。 “n.dan”さんがおっしゃる通り、死との向き合い方は人それぞれという面もあります。ところが、一部の人は悲嘆から回復することができず、長期間悲しみが持続することにより、健康維持ができず身体的併存症での死亡のリスク、精神不調を来し依存症時には自死のリスクにもつながることが知られていました。 そして、2019年に公表されたWHOの疾病分類であるICD-11には、病的な死別反応としてPTSDと同じカテゴリーであるストレス関連症に、Prolonged grief disorder(遷延性悲嘆症)が採用されました。その概念は、パートナー、親、子どもなどの近親者との死別後、最低でも6か月以上持続する精神的苦痛(悲しみ、罪悪感、怒り、否認、非難、死を受け入れることの難しさ、自分の一部を失った感覚、前向きな気分を経験できないこと、感情の麻痺、社会活動やその他の活動に参加することの困難など)で、個人、家族、社会、教育、職業、などに重大な障害を引き起こすこと、となっています。 近親の死は悲しくて当然なのですが、回復の過程は大きな差があります。遷延性悲嘆症の人には、「誰にでもあること」「私にもその気持ちが理解できる」「過去をふりかえらないで前を向いて」という慰めや励ましの言葉さえ本人を苦しめることになります。当事者の会などでつらい気持ちを話すこと、じっくりと話を聴いてもらえる支援者を探すことがケアのスタートになります。“ひるね”さんや“の「ひたすら話を聴くことに徹する」ことも友人のサポートにつながったのだと思います。体験をもとに事実を積み重ねていくことが、現在手探りの状態のケアを深化させていくことになるでしょう。 災害や事故で近親の死に直面した人は、PTSDと遷延性悲嘆症両者のリスクが高くなると思います。「自分だけ助かった」「なんでこんなひどい目に合うんだ」「生きる希望がない、死にたい」という感情が長期間続くことは極めて辛いことです。忘れることなく持続的に続く(遷延性悲嘆症)、日常的によみがえる(PTSD)ことが疾患概念に相当します。“しょこ”さんは「忘れてしまえる自分」と述べていますが、生きていくうえで不都合な過去を現在から切り離すことで日常が戻ってくるのです。 医療においても、多くの精神科医は悲嘆症の専門ではなく診療体制が整っていません。「災害を風化させない」は「いつ起こるかわからない災害に備える」という目的で使用されていますが、同時に「癒えることのない悲しみに苦しむ人がいる」事実にも目を向けて、支援体制を整えていくことも忘れてはいけません。 日本でこれから迎える多死の時代、遷延性悲嘆症のケースも増えてくると思います。社会で向き合い方を考える時期が来たのではないでしょうか。 被災された方、事故にあわれた方、親しい人を亡くされた方々には、安らぎのある日々が訪れることを祈念いたします。1週間お付き合いいただきありがとうございました。 ★古荘議長の過去の円卓会議より
・子どもの自殺増加、サインに気づくことはできますか?
・残酷な映像で、精神が不安定になったことありますか?
・コロナ禍。心の病を持った仲間への対応、うまくできますか?
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